東京事変の「再生」は音楽シーンを席巻する
東京事変、「再生」。
このニュースが飛び込んできたのは今年の元旦だった。2012年の閏年に解散した東京事変の8年ぶりの再始動。椎名林檎大好きメンヘラのTwitterなんかお祭り騒ぎになってしまっていた。いやあのね、椎名林檎好きなナオンは全員メンヘラって訳じゃない。ただ「どこ」を「何処」とか言ったり、「もったいない」を「勿体ない」とか言ったり、変換一発目で出てこないような漢字をあえて使っているメンヘラ病み系ナオンが増えてるってだけなのだ。実際椎名林檎も毎晩ベンジーに殴られてピザ屋の彼氏になってみたいと憧れてるんで、正直メンヘラ病み系ナオンと変わらない気がするのはきっと気のせいじゃない。あ、これ悪口じゃないです。
実際、僕も椎名林檎や東京事変にハマってしまった1人でありまして、彼等に出会ったのは高校生の頃。最初は「椎名林檎が率いるバンド」くらいの認識だった。多分こういう人って多いと思う。東京事変というバンドはそういう人たちの度肝を抜いた。椎名林檎の楽曲とは違う質感。それでいて、ポピュラーなバンドサウンドとも違う。唯一無二。それが東京事変なのだ。
新しい文明開化 / 東京事変
先ほど、「東京事変はポピュラーなバンドサウンドではない」って言ったが、それは楽曲事態に限ってのことだけではない。というのも、ある意味バンドという一括りに収めることが出来ないような感覚がする。成り立ちがオーソドックスなものではないからだ。
そもそも、椎名林檎というビックアーティストがいて、亀田誠治というビックなプロデューサーがいて、浮雲などのメンバーを集めて作ったバンドであるから、よくいる「下北沢で集まりました!」「地元の同級生と組みました!」みたいなバンドとは全然違う。メンバー全員のスキルは高いし、なにより「バンドが解散しても困るような人間がいない」ということ。椎名林檎や亀田誠治はもちろんのこと、浮雲は前ブログに書いたペトロールズがあるわけだし、刄田綴色や伊澤一葉に限っても、音楽的に困る〜〜〜みたいなことは一切ない。
正直、これが「理想のバンド形態」なんだと思う。つまり、解散すると言っても音楽的に行き止まり感がなかったり、もう次はないだろう、みたいな感覚は一切ないバンド。だから、今年東京事変が「再生」しても、これほどまでに歓迎され、期待されるバンドなんだと思う。
選ばれざる国民 / 東京事変
そして、1月1日に発表されたティザー映像の楽曲、「選ばれざる国民」。これまでの東京事変とはまた質感の違うような楽曲というように感じた。アップテンポで盛り上げるわけでもない。聴かせるようなバラードでもない。それでいて、「東京事変が再生したことに対するワクワク感」がある。一度停止したバンドが再開するにふさわしい曲になっているように思う。
そして、注目するのは再開一発目の曲で「椎名林檎ボーカル曲」ではないということ。先程も言ったけれども、東京事変童貞は「東京事変は椎名林檎のバンド」くらいの認識だと思う。しかし、この「選ばれざる国民」を再生すると、最初に聞こえるのは浮雲の歌声。初めて東京事変を聞く東京事変童貞は「椎名林檎のバンド」という概念を破壊される。また、この曲の作曲は浮雲が担当しているが、ペトロールズとはまた違う質感の楽曲である。東京事変は椎名林檎やペトロールズの浮雲だけじゃない。メンバー5人全員が主役なのだということを思い知らされるのだ。
娯楽というアルバムに「某都民」という曲があるけども、この曲も歌い出しは浮雲だし、椎名林檎と浮雲と伊澤一葉の3人がボーカルを担当している曲もある。それも東京事変の良さなんだと思う。椎名林檎以外が歌っても、「東京事変の曲」として成立している。椎名林檎のソロとも違う、東京事変でしか聴けない音楽になるのだ。
永遠の不在証明 / 東京事変
そして新曲、「永遠の不在証明」。椎名林檎自身が作曲を手掛けたこの曲は、「再生」を遂げた東京事変の新たな代表曲になったと感じる。憂いと品性、そして壮絶な緊張感をまとうメロディラインは、どこまでも椎名林檎らしい。そこに各メンバーのプレイヤビリティが炸裂しまくるバンドサウンドが掛け合わさった時の化学反応は、やはり東京事変の楽曲でしか体験できないものだと思う。特に、ロックサウンドの推進力が爆発するサビの裏打ちのリズム、そして、各々の超絶技巧が混沌の中で美しく調和し合うソロ回しの一幕は圧巻だと感じてしまった。
昨今、新型コロナウイルスで未曾有の危機に扮している世界の中で、音楽をはじめとするポップ・カルチャーの存在意義がシビアに見直されていると感じている。映画の公開延期やライブイベントの中止など、さまざまな心を痛める報せが続く中、今回、東京事変の5人が、堂々と「音楽」の可能性を鳴らしてくれたことには、あまりにも深い意義があると思う。
新譜を聴きながら30分でこの記事を書いてしまった。これからも東京事変を聞きながら、音楽シーンにも春が来ることを望んでいる。
以上。また何かあればよろしく。